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「ゲイ・パニック」「トランス・パニック」を理由とした犯人擁護論についての報告書(要旨)

「ゲイ・パニック」「トランス・パニック」を理由とした犯人擁護論についての報告書(要旨)

The American Bar Association

2013/8

 

原文はこちら。

http://lgbtbar.org/what-we-do/programs/gay-and-trans-panic-defense/

 

ジョージ・スティーヴン・ロペス=メルカード(19)は、ゲイであることを公にしていることを理由に首を切られ、手足を切断され、その体は燃やされました。しかし、この件を担当した警察の調査官によれば「こういう生活をしている人たちは、こういうことが起こり得ると知っておくべきだ」と。マシュー・シェパード(21)がゲイバーで2人組の男の前を通り過ぎた時、殴られ、銃で殴打され、フェンスにくくりつけられ、放置されるということを予期していなければならなかったということでしょうか。エミール・バーナードがヒッチハイカーに近づき、刺され、殴られ、失明させられたとき、バーナードに暴行を加えた犯人は、自分を性的に誘って「トラブルを起こした」バーナードのほうに非があると主張しました。もしアンジー・サパタ(18)が、男性の身体機能を持っていることを「隠して」いなければ、消火器で殴られて殺されることもなかったのでしょうか。教師やクラスメートたちの前でまるで処刑のように、ラリー・キング(15)を銃殺した同級生の行為は、その前日ラリーがドレスを着てヒールを履き、“Love you, baby!”と彼に声をかけたことを理由に、正当化されるでしょうか。こういった犯人擁護論は実際にアメリカの法廷で利用され、今日においてさえも、犯行の弁解や減刑の根拠となっているのです。

 

 

「ゲイ・パニック」「トランス・パニック」を理由とした犯人擁護論は、驚くほど長い歴史をもっており、LGBTの人々に対する反感が広く蔓延していた時代の遺物です。こういった擁護論は、被害者の性的指向やジェンダー・アイデンティティが、被告の暴力的行為を招いたと陪審員を説得しようとします。つまり、被害者の性的指向やジェンダー・アイデンティティは、客観的にみて、被告の自制心を失わせる合理的な理由であり、LGBTの個人に対してなされた損害に対する過失を軽減するというのです。LGBTの被害者に対する犯行の言い訳として用いられるこの擁護論は、LGBTの人々の命は他の人々の命よりも価値がないものだという考えを法的に正当化しようとします。

 

歴史的に、ゲイ/トランス・パニックを理由とした擁護論は、殺人(murder)を過失致死(manslaughter)や、正当性のある殺人(justified homicide)に減刑するために3つの方法で利用されてきました。まず、被告はゲイ・パニックを理由に、自分は正気でなく、判断能力を失っていたと主張する場合。被告は、被害者が性的にアプローチしてきたことがきっかけで精神崩壊し、「ホモセクシュアル・パニック障害」にかかったと主張するのです。このような主張は、1973年にアメリカ精神医学会が「ホモセクシュアル・パニック障害」を「精神障害の統計・診断マニュアル」(DSM)から外してから信憑性を失いました。しかし、法の分野は医療の進展に追いついておらず、類似の主張がいまだに法廷で繰り返されているのです。

 

第2に、ゲイ・パニック論を使って、被害者が性的に誘ってきたこと(それが暴力的でないものであっても)は、殺害を誘発するのに十分に挑発的な行為であったと主張する場合です。トランス・パニックについても同様に、被害者の生物学的な性別を発見したこと(たいてい、合意に基づく性的関係をもった後)が、殺害を誘発するのに十分な理由であったという主張がなされます。

 

第3に、ゲイ/トランス・パニック論を使って、正当防衛を主張する場合。こういった場合、被告は、被害者の性的指向やジェンダー・アイデンティティを理由に、被害者が深刻な身体的損害を加えようとしていると考えたことは正当であると主張します。危険を感じたというだけでは正当防衛の基準に当てはまりませんが、被告は、被害者の性的指向やジェンダー・アイデンティティのみを理由に、その脅威の大きさを主張するのです。

 

ゲイ/トランス・パニック擁護論は、正義の実現を阻害しています。不正義の1つは明らかです: 犯人は被害者を殺害もしくは暴行を加え、さらに法廷で、被害者の性的指向やジェンダー・アイデンティティを責めるのです。こういった擁護論が法廷で受け入れられるとき、被告側はLGBTコミュニティに対して、同性愛者やトランスの人たちが被る損害は他の人達が被る損害とは異なっていて、犯人は同じように罰されることはないというメッセージを送っています。同様に、LGBTの人たちに対する暴力的な振る舞いの言い訳としてこれを認めることで、法廷はLGBTをターゲットとした攻撃をまともに裁く気はないのだと、反LGBTのバイアスをもっている人たちに教えていることになります。LGBTに攻撃を加えたいと思っている人たちにとって、暴行や殺人さえもが、LGBTであることをオープンにして生活していることに対する合理的な反応であるという考えほど便利なものもないでしょう。ゲイ/トランス・パニックを理由とした擁護論を認めない法廷や議会も出て来るようになりましたが、いまだに正当な議論として使われ、効力を発揮している場所もあります。

 

この報告書はゲイ/トランス・パニック擁護論の差別的な効果を撲滅するための3つの提案を行います。まず、関係者からの要請に基づき、陪審員に対して不適切な偏見やバイアスなしに意思決定するよう指示を与えること。第2に、議会が暴力を含まない性的なアプローチやジェンダー・アイデンティティの「発見」が、殺人を正当化する理由にはならないと明記すること。第3に、州と地方政府が積極的に法廷、検察、弁護士、光州に対してゲイ/トランス・パニック擁護論とそれがLGBTコミュニティに対してどのような弊害をもたらすかを教育すること。

 

このような時代遅れの議論が未だに使われているということは、私たちの国でのより公平な司法制度の実現の大きな障害物です。ゲイ/トランス・パニック擁護論が利用され、正当と認められているかぎり、レイプシールド法やヘイトクライム法といった司法改革のモメンタムを阻害します。LGBTの人々は法のもとで平等な市民であるという現在の理解を鑑み、ゲイ/トランス・パニック擁護論は撲滅しなければいけません。